9月30日、日曜日。泣いても笑っても、今日をもって東北の渓流は禁漁となる。
最後も、悪あがきをしてみようじゃないか。定宿、マース北上に前泊。コストパフォーマンス最高。チャンさんと連絡の行き違いがあって会えなかった。
岩手県の北上山地。古い集落の先から一本の小さな山道をたどると、東北らしい大らかで荘厳な森に包まれる。
最近は伐採作業が始まり、車止めもずいぶん下流に指定されてしまった。
そこからは徒歩でひたすら上流を目指すことになる。1時間は伐採用の重機が入ったであろう整地された道が続くけれど、やがて人の細い踏み跡に変わり、踏み跡もやがて薮にまぎれて道がなくなる。
さらに藪漕ぎを1時間ほどして進軍すると、上流部に隠された美しい谷が出現する。
秋の空は高く、落葉樹の森に囲まれた透き通った流れに立ちこむと、下界の念みたいなものが消えていって、明るい流れに足下から同化していくのが分かる。
頭の中は静寂ののち、瀬音に包まれる。
渇水でポイントは限られてしまったが、源流の美しいイワナがフライに飛び出した。
福島もそうだったが岩手も相当な残暑だったらしく、水量は普段のおそらく1/3程度だった。今年は異常気象だったことをこんな奥地でも実感してしまった。
当然ながらそのようなチャラ瀬には魚はいないので、少しでも水が集中しているところ、虫が流下してくるであろうと想像する場所にフライを飛ばしていく。
数こそ出ないが、でてくるイワナのサイズは26cm〜で素晴らしいコンディションだった。
きっと渇水の困難な生存環境を耐え抜いたイワナたち。しっかり食べているのか、太っていた。
古い橋から見下ろすと、溜まり場のなかにイワナのペアが数尾、落ち葉の中をクルクルと泳ぎ回っていた。
秋は、生命の躍動がもっとも活発になる季節。明日から禁漁になる理由が、ここにある。
ここから先の空間と時間は、彼らだけのものだ。
この溜まり場に竿を出すなんて野暮というか、人間の攻撃性を自然界に持ち込む姿そのものではないか。
そっとこの場を後にして、最後の堰堤までの数100メートルを釣り上がる。
差し出された枝が覆っている小さなプール。
ついに出ました、尺イワナ!
・・・と思いきや、泣き尺だった(29cm)。それでも体高たっぷりの素晴らしいイワナ。
今年最後の魚は、それはもうカッコ良さこの上ない一尾。
そっと流れに戻してやると、一瞬何が起きたのか分からなかったのかキョトンと停滞して、
気を取り戻して慌てて流れに消えていった。
秋色に染まる有終の渓は、光の中。これにて、今年の渓流釣りは、了。
川連竹竿とともに、今年はずいぶん良い釣りができたと思う。東北に居を移したという環境の変化が大きい。
来年は、どんな渓流魚に出会えるだろうか。
コメント