初夏の北海道。日差しはすでに強く、木も草も空気も、すべてがきらきらと輝いていた。
河原は、勢いのある大きな夏草が覆いかぶさり、きっとその下の流れの際々に、大物が潜んでいるかもしれないという期待感で、釣り上がる足元がぐらつく。
かすかに笹濁りの色が差した分厚い流れが裳裾をひくようにひろがって浅いザラ瀬になっている。
瀬をすぎると流れは太い帯になって、その曲がり角ごとに深い淵を作っている。
渇水で相当叩かれているのか、それでも40センチのエゾイワナが襲いかかった。
20メートル前方、スリット状に深い淵と浅い流れの明らかな境界線が続く、掛け下がり。フライは8番の「蛾デス。」(これもうカディスじゃないですよ、蛾ですよ、ということで名づけました笑)
エグレの深みにフライが流れてきた瞬間、魚が出た。大きく水面が弾けた。
フッキングしていざリールファイト。ふと手前まできて全身が見えた。息をのむほど大きかった。
強烈な引き、46のアメマス。
その先のぐっと生い茂るオーバーハングに差し掛かって2投目。大きな毛針に決然と襲いかかった何者かは、かけた瞬間から大型だとわかった。SAGEのバリカタロッドは
半月状にしなり、リールの悲鳴はしばらく続いた。
8分の格闘の末に引き寄せたエゾイワナは、50オーバー。全身に精気がみなぎる筋肉系美魔女。
さらに待っていた、2日目のドラマ。52センチ。
分厚い流れの向こう側から、さらに泣き50
これは47センチ、口が三又になったあまりにもかっこいいツラがまえ。
この初夏の日差しと、ざわざわと耳に聴こえる、北海道の大渓流の瀬音。そして静寂の水面を割る大物のライズ。それは自分が生きている中でたった一度のできごと。
毎年この時期に来ているけれども、そのなかで現れるのは、たった一度の、記憶の断片に
刻まれる瞬間だ。だから毎年、性懲りも無く北海道に行くのである。
ここでしか味わえない破壊力抜群の大物を水に戻すたびに、まもなく北海道に別れを告げなくてはいけないと、しんみり思うのであった。
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