逝く夏

気がついたら、影が長くなっていた。蝉の声もはたと途絶えた。自分はこの夏を楽しんだだろうか?体力のなさにかまけて、ほとんど渓流にも、ましてやパンヘッドにも乗っていなかったような気がする。
それでも容赦なく、今年の夏も逝く。




ボクは夕暮れの時が好きだ。柳田国男の『妖怪談義』によると、昔、子供達が夕暮れになっても遊んでいると、神隠しにあったり人さらいに連れていかれるという恐怖があった。ボクたち日本人のDNAに深く刻まれている、古来のそわそわした感覚。




日が傾くと、魔物が人のそばまでやってくる。『たそがれ』という。
『誰ぞ彼』・・・彼は誰という意味だ。黄昏に道を行き交う者がお互い声を掛け合うのは、互いにバケモノではないということを確認する手段だったのだ。

やがて落ちる陽を背に浴びて、焦げパンを家路へ走らせた。




そろそろ秋刀魚とお酒が、美味しい季節の到来だ。

コメント